ネットワーク通信量を計測してみた
シン・テレワークシステムを使いたおす(13)

2022年1月18日

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前回はシン・テレワークシステムを非管理者権限で使う方法と注意点を説明しました。

今回はシン・テレワークシステムのネットワーク通信量を計測してみました。

シン・テレワークシステムの便利さはこれまでの記事で多く書かせていただきましたが、公式サイトを見てみるとふとこのようなFAQが目に付きました。

Q. 1 セッションあたり、どれくらいの帯域 (通信量) を消費しますか?

A. 利用様態によって異なりますが、これまでの統計データによる平均で、おおむね約 50 Kbps ~ 150Kbps 程度です。

https://telework.cyber.ipa.go.jp/faq/

50Kbps~150Kbpsとはかなり少ない通信量ではないか!と感動するとともに、本当にそうなのか?という疑問が湧いてきました。

中には『モバイル回線でシン・テレワークシステムを使ったら1日で数GBも消費してしまった!』というネット上の声もあるようです。

そこで今回は実測ベースでシン・テレワークシステムを使うとどれぐらいの帯域(通信量)を消費するのか計測してみました。

計測に使った環境

前置きはいいから結果が見たいという方は『結果の検討』までお進みください。

使ったPC

シン・テレワークシステムサーバーをインストールしたPC(遠隔操作される側)

  • Surface Laptop 2
  • Windows10 Pro 64bit
  • CPU:第8世代Core i5
  • 256GB SSD
  • メモリ:8GB
  • 解像度:2256×1504
  • シン・テレワークシステムサーバーバージョン:Ver 0.18

シン・テレワークシステムクライアントをインストールしたPC(遠隔操作する側)

  • Surface Pro X
  • Windows11 Home ARM
  • CPU:Microsoft SQ1
  • 128GB SSD
  • メモリ:8GB
  • 解像度:2880×1920
  • シン・テレワークシステムクライアントバージョン:Ver 0.18

通信環境

ネットワーク構成図

2台のPCをインターネットに接続して、シン・テレワークシステムを使い遠隔操作します。

インターネット環境

シン・テレワークシステムの通信量を調べるのに低速なインターネット回線を使っては意味がありません

もしシン・テレワークシステムが行う通信の最大速度よりも低速な回線を使って計測してしまうと、それはシン・テレワークシステムの通信帯域ではなくインターネットの最大通信帯域を計測したことになってしまいます。

そこで今回は事前に利用したインターネット回線の通信環境について速度テストを実施しています。

Googleインターネット速度テストで計測した簡易的なものですが、計測結果は下り約400Mbps、上り約290Mbpsとなりました。

計測の結果、通信量が300Mbpsに近くなったらインターネットの通信上限と判断することにします。

なお、シン・テレワークシステムサーバーが収容されているグローバルIPアドレスへのPing遅延は約22msでした。

計測方法

計測はシン・テレワークシステムの遠隔操作を接続して、その間のシン・テレワークシステムサーバーをインストールしたPCのネットワーク通信量を計測します。

より厳密にはシン・テレワークシステムの通信のみをパケットフィルタで拾い出して、その通信量のみを計測する必要がありますが、今回はあくまで簡易計測ということでそこま厳密にはしていません。

※きちんとWindows Updateは先に済ませてアプリの起動も最小限にはしております。

また、一口にシン・テレワークシステムの通信量といってもシン・テレワークシステムの接続方法は複数あります。

そこで今回は次の4つの接続方法それぞれで通信の様子を計測しました。

  • 通常クライアント版(リモートデスクトップ接続使用)
  • ユーザーモード接続(リモートデスクトップ接続を使わない方法)
  • ブラウザ版(HTML5)
  • ブラウザ版(HTML5+WebP有効化)

さらに、一口に遠隔操作といっても色々な使い方があります。

例えば静止したまま画面操作をしない場合とドキュメントの編集をした場合で通信量が違うのは感覚的に理解できるかと思います。

そこで今回は4パターンの操作を行いました。

  • 静止したまま何もしない
  • Excelで簡単なグラフを作成(一般的な事務作業を想定)
  • とあるアニメのオープニングを再生(約1分30秒。おそらく遠隔操作にとって最も通信量が大きい)
  • ファイル転送(通常クライアント版接続のみ実施。他は機能的にファイル転送できない)

まとめると下記の表を計測した通信量で埋めていく感じになります。

静止したままExcelグラフ作成動画再生ファイル転送
通常クライアント接続
ユーザーモード接続機能的に不可
WEB版(HTML5)機能的に不可
WEB版(HTML5+WebP)機能的に不可

測定結果

それぞれ測定結果の折れ線グラフを貼り付けます。縦軸は1秒ごとに計測した通信速度(青が受信、赤が送信)、横軸は経過時間(秒数)です。

累計通信量は簡易的に計測値を全て合計して1分あたりに計算したものとします。

また、測定値はすべてシン・テレワークシステムサーバーをインストールしたPCのものです。

ですので、ここでいう受信とは”クライアントからサーバーへの操作やファイル転送の通信”であり、送信とは”サーバーからクライアントへの画面転送”と考えてください。

通常クライアント版の場合

静止したまま何もしない

静止状態ではほとんど通信していないことが分かります。

2か所ほど突発的な受信が見えますが、最大値が100kbps未満ですのでほとんど無視できるものでしょう。

このことから、何も操作していなければ発生する通信量は微々たるものだと言えます。

受信通信量:190kbit/min

送信通信量:63kbit/min

Excelで資料作成

作業的には簡単なグラフを作るだけの短い(80秒程度)ものです。

全体的に送信の山谷が激しいですが、おそらくデータ入力中など画面の変化が少ないときに通信しないことで通信量を抑えているものと思います。

また、さすがに静止状態と比較すると送信だけでなく受信も増加しています(マウスを動かしたりキーボード入力したりしますからね)。

受信通信量:2406kbit/min=約2.3Mbit/min

送信通信量:14696kbit/min=約14.3Mbit/min

動画再生

動画再生はさすがに通信量が激増しました(縦軸の桁数がこれまでと違うことに注意)。

一貫して10Mbpsは常に超えていますし、一番多いときでは30Mbpsに達しています。

送信通信量は755Mbit/min、1時間当たりの通信量に換算するとなんと5GBを超えます

ただ、個人的に驚いたのは再生品質の高さでした。実験中にクライアントPCから動画再生の様子を見ていたのですが、音声に関してはほぼ遅延もなく、動画についても時々フレームが飛びますがほぼ問題なく再生されていました。

通信回線が高速であればそれだけ帯域を使って高品質な動画転送をする性能があるようです

また、数値が小さくて見えづらくなっていますが受信も地味に帯域を消費していました。

受信通信量:11175kbit/min=約10.9Mbit/min

送信通信量:773163kbit/min=約755.0Mbit/min

ファイル転送

ファイル転送ではクライアントPCからサーバーPCへ約60MBのデータをクリップボードで転送しました。

ですので、ここではサーバーPCからみた受信が激増しています。

このグラフから見えてくることは、シン・テレワークシステムの通信速度上限は大体30Mbpsあたりのようです(その日の利用者数やインターネット環境にもよると思いますが)。

受信通信量:792208kbit/min=約773.6Mbit/min

送信通信量:12050kbit/min=約11.7Mbit/min

ユーザーモード接続の場合

静止したまま何もしない

ユーザーモード接続でも静止したまま何もしなければ通信量はほとんど上がらないようです。

通常クライアント版のときと同じように突発的な受信が見えますが、やはり最大でも70kbpsと無視できる程度のものです。

受信通信量:130kbit/min

送信通信量:30kbit/min

Excelで資料作成

傾向としては通常クライアント版と同じような感じです。

ただ、全体的な通信量は通常クライアント版に比べると抑えられています。

その一方で操作間や画面のレスポンスはやや遅延が目立つ印象を受けました。ソフトの性能自体があまりよくないために通信量も下がっているだけかもしれません。

受信通信量:1441kbit/min=約1.4Mbit/min

送信通信量:8245kbit/min=約8.0Mbit/min

動画再生

動画再生ですが、全体的に通常クライアント版よりはかなり通信量が抑えられています(半分以下)。

しかし、実態としては動画の再生はかなり遅延しまくりで音声も完全に再生できておらず、動画として視聴できるような結果ではありませんでした。

そのため、こちらもソフトウェアの性能上、動画の再生ができるほどではないということです。

こういった表示の遅延は図面作成作業や動画像編集といったシームレスな操作が要求されるような業務においては致命的なので、こういった業務をシン・テレワークシステムで行うときは必然的に通常クライアント版を選ぶことになるでしょう。

受信通信量:6672kbit/min=約6.5Mbit/min

送信通信量:227931kbit/min=約222.5Mbit/min

WEB版クライアント(HTML5)の場合

静止したまま何もしない

WEB版クライアントだとしても、やはり静止したまま何もしなければ通信量はほぼゼロに近くなりました。

こういった傾向はどのクライアントソフトを使っても同じですね。

受信通信量:50kbit/min

送信通信量:41kbit/min

Excelで資料作成

WEB版クライアントで一番有能だったのはこのExcelで資料作成でした。

通信の傾向は他と同じく山谷を繰り返していますが、全体的な通信量としては通常クライアント版よりもかなり抑えられています。

画面のレスポンスについては通常クライアント版より若干劣る面はありますが、一般的な事務作業をこなす程度なら特に問題なさそうな感じでした。

このことからも通信量に対するパフォーマンス(コスパならぬトラフィックパフォーマス)は飛びぬけていました。

受信通信量:290kbit/min

送信通信量:1319kbit/min=約1.2Mbit/min

動画再生

動画再生はかなりなだらかな線グラフになっていますが、結果としてはユーザーモード接続と同じように動画として見れるような品質ではありませんでした。

ここはやはりWEB版クライアントの性能限界とも言え、図面作成や動画像編集といった業務には向かないでしょう。

受信通信量:1193kbit/min=約1.1Mbit/min

送信通信量:39168kbit/min=約38.2Mbit/min

WEB版クライアント(HTML5+WebP有効化)の場合

シン・テレワークシステムはWEB版クライアントを接続するときにオプションとして”WebPを有効にする”というものがあります。

どうやらこのWebPを有効にすることで動作が軽量になることがあるらしいので、こちらも試してみましたが結果は無効の場合とほとんど変わりませんでした(少なくとも操作感はほぼ同じです)

そのため、グラフは張り付けておきますが解説は省略します。

静止したまま何もしない

Excelで資料作成

動画再生

結果の検討

さて、まとめると下表のようになりました。この結果からどんなことが言えるか検討してみます。

静止したままExcelグラフ作成動画再生ファイル転送
通常クライアント接続受信
190kbit/min
送信
63kbit/min
受信
約2.3Mbit/min
送信
約14.3Mbit/min
受信
約10.9Mbit/min
送信
約755.0Mbit/min
受信
約773.6Mbit/min
送信
約11.7Mbit/min
ユーザーモード接続受信
130kbit/min
送信
30kbit/min
受信
約1.4Mbit/min
送信
約8.0Mbit/min
機能として果たせず機能的に不可
WEB版(HTML5)受信
50kbit/min
送信
41kbit/min
受信
290kbit/min
送信
約1.2Mbit/min
機能として果たせず機能的に不可
WEB版(HTML5+WebP)HTML5と同じ HTML5と同じ HTML5と同じ 機能的に不可

1日の通信量は?

クライアントPCをモバイル回線など通信量上限のある環境で行っている方からすると、やはり気になるのは1日にどれぐらい通信するかです。

業務形態に依存する部分が大きいので、いくつか考えてみましょう。

※大前提として、今回の実験は限られた時間の中で行ったものです。より正しく正確な数値は業務を実際にシン・テレワークシステムを使ってみて計測してみることが重要です。

8時間事務作業(通常クライアント接続)

2.3+14.3=16.6Mbit/min=約2MB/min=約120MB/hour

つまり、8時間で約960MBとなり場合によっては1GB超えることも十分あり得ます

また、今回の動画再生ほどではないにしても画面の切り替えや新しいウィンドウを開いたりといった、画面表示が大きく変化する場面では通信量が多くなりがちです。

おそらく実業務として8時間遠隔操作すると2~3GBほどになることが多いのではないでしょうか。

どうしても通信量が気になる場合はWEB版クライアントでやってみるといいかもしれません。

上手くはまれば業務効率を落とさず通信量を抑えることができるかもしれません。

8時間作図や動画像編集(通常クライアント接続)

動画再生の実験では755.0Mbit/min(1時間で約5.6GB、8時間で45GB)という数値をたたき出していますが、さすがに業務で8時間遠隔で動画を見る場面はほぼ無いんじゃないかなと思います。

ただ、近しい業務として動画編集をしている場面を想像してみましょう。

動画編集は編集したり再生したりの繰り返しです。編集中は755.0Mbit/minという帯域は消費しないと思いますが、動画再生の確認をしていると近しい帯域を消費する可能性があります。

仮に8時間の内、2時間が再生確認だとしてもそれだけで10GBを消費する計算になります。

作図作業も似たようなもので、画面の動きが激しいということは動画再生と近しい状態になる可能性があります。

ですので、もしこういった業務をシン・テレワークシステム+モバイル回線で考えられているなら、事前に1日の通信量をしっかり検証しておくことが大切になるでしょう。

同時に接続できる限界は?

次は目線を変えて、会社のオフィスにあるPC何台を同時に接続できるか?という話です。

これもやはり業務形態によりますが、仮に通常クライアント版でExcel資料作成するとします。

計測結果のグラフを見てみると、1Mbpsあればおおよそ通信をカバーできることが分かります。

後は単純計算で会社のプロバイダ契約通信帯域が100Mbpsなら100台、1Gbpsなら1000台という具合です。

帯域保証型(ギャランティ)契約の方はそのまま計算して、ベストエフォート型の方は実際に通信速度を計測して検討しましょう。

また、当然のことながら通信帯域のすべてをシン・テレワークシステムに注げるわけではないでしょう。

そのため、実際に使える台数は0.5掛けなどの安全率をかけることをおすすめします。

公式のQAとかなり数値が違うのはなぜ?

冒頭述べましたように、公式サイトのQAにはこのような記述があります。

Q. 1 セッションあたり、どれくらいの帯域 (通信量) を消費しますか?

A. 利用様態によって異なりますが、これまでの統計データによる平均で、おおむね約 50 Kbps ~ 150Kbps 程度です。

https://telework.cyber.ipa.go.jp/faq/

しかしながらこれまでの計測値を振り返って分かるように、50kbps~150kbpsに収まっている結果はほとんどありません。

ではこれはどういうことなのかというと、あくまで推測ですが重要なのは”統計データによる平均”というところだと思います。

これまでの結果を振り返ると、何かドキュメントの編集なり操作をしている限り150kbpsは余裕で超えることが見えてきましたが、一方で無操作だとほぼ通信しないことも分かっています。

このことから、やはりどんなPC作業においても無操作時間(決して仕事をしていないわけではない)というのは一定数存在して、それらを含めて平均すると50~150kbpsぐらいに落ち着いたのだと思います。

まとめ

  • 通常クライアント版は性能的にかなり優秀、でも通信帯域は一番消費する
  • WEB版クライアントは通常事務作業なら通信効率は一番良い
  • ユーザーモードは機能的な使いづらさはあるが通信量も控えめ

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