システムを使ってもらえない人に使ってもらう
社内SEは業務効率化や新しい価値の創出のため、新しいシステムに置き換えたり導入したりします。
この場合に必ずと言っていいほど”システムを使いたくない反対勢力”がいます。
人が複数集まると、どうしてもいろいろな考え方や都合が存在するので仕方のない一面ではありますが、せっかく導入したシステムを使われず、かえって業務が停滞してしまうことすらあります。
そこで今回はシステムを使わない、使ってくれない人への対応方法をご紹介します。
そもそも必要な操作説明をやっていなかったり使う環境が整備されていない状態は除きます。
ここでは必要な準備や操作説明をしたにもかかわらず使ってもらえない、人間の行動心理の観点から切り込んでいます。
不正のトライアングル
犯罪心理学の考え方に”不正のトライアングル”というものがあります。
既にご存じな社内SEの方は飛ばしていただければと思いますが、人間がどうして不正を起こすのかに注目しています。
この考え方によれば、不正行為は”機会”、”動機”、”正当化”の3つが揃った時に発生すると言われています。
この3つが揃った時に不正が発生するならば、逆に1つ無くせば不正行為は発生しないという側面があります。
この性質を利用すると、不正行為を防ぐために施策を展開するヒントになります。
『いやいや、不正行為と社員がシステムが使わないことは全く違うでしょ』
そんな声が聞こえてきそうですが、私としては”システムを正しく使わないこと”を会社の方針に従わない一種の不正行為に紐づけると、共通する部分は多いと考えています。
機会、動機、正当化とは
機会とは、不正行為ができる環境があること、不正行為をするための抜け道があることです。以前の手続きが使える、とか古いシステムが生きている、などです。
動機とは、不正を起こすのに背中を押してしまう出来事です。これをやらないと責められる、とか失敗するとひどい目にあう、などです。
正当化とは、不正を起こすのに自分を納得させる理由付けです。あの人のために仕方なくやった、とかが該当します。
これら3つの要素が重なった時に不正行為、もといシステムを使わない行動を生み出すと考えてみます。
システムを使わない選択ができてしまうのはなぜ?
システムを使わない人が一定数いる状態が起きた時に、そもそもそのような状態がどうして成立するのか考えてみます。
不正のトライアングルに照らすと、機会動機正当化が揃うことです。
機会が成立する
これはシステムを使わなくても済んでしまう状況のことです。
例えばFAX業務効率化のため、インターネットFAXシステムを導入したとします。
このとき、旧FAX番号でも受信できるようにと旧FAX番号を残したままにしておくと、インターネットFAXを使わずに複合機でFAXを送信することができてしまいます。
インターネットFAXの使い方を覚えたくないユーザーは、この機会を逃さず従来通り複合機でFAXを送信することでしょう。
動機が成立する
これはシステムを使いたくないと思わしめる出来事です。
忙しくて新しいシステムの使い方を覚える時間がない、上司や同僚・取引会社から書類の提出を急がされている、そもそも新しいことを覚えたくないという思考などです。
特に”新しいことを覚えたくない”という動機を排除することは難しく、この方面からの対策は奉公しにくいでしょう。
正当化が成立する
これはシステムを使わないことを自分自身に納得させる、いわば一種の言い訳です。
周りにシステムを使っている人がいない(特に上司)から自分も使わなくていい、今のやり方が自分にとって一番効率がいいから今のやり方が会社のためになる、自分たちの仕事はシステムの使い方を覚えることではない、などなど。
中には一見、納得してしまいそうなそれらしい理由もありますが、会社がやろうとしていることに反するのは基本的にルール違反です。
具体的な対策方法
これら3つの条件がそろった時に”システムを使わない”という選択が成立します。
それでは不正行為の対策と同じように、機会動機正当化の観点から策を講じてみましょう。
具体策を考えるときに忘れないでいただきたいのは、機会動機正当化の”どれか1つだけ対策すればよい”ということです。
効果が薄い場合は複数の手段を組み合わせましょう。
機会を無くす
不正行為ができる環境を無くす、すなわち”システムを使わざるをえない環境を作る”ことが重要です。
- 古いシステムを使えなくする
- 入力や処理を必須項目として、実施しないと次工程が流れないようにする
- システム経由の申請でなければ受け付けない
先のインターネットFAX導入の例に当てはめると、古いFAX番号は廃止する、受信は出来るけど社内から送信は出来ないように複合機の設定を変える、などが該当します。
強制力の強い方法なので実施すると目に見えて効果が出てきますが、社員に強制する以上は経営層の承認を必ず貰い、経営層の指示という形式をとるようにしましょう(勝手に管理者権限でやると怒られるよ)。
また、この方法はやりすぎると情報システム部門の信頼性低下や今後の協力を得にくくなったりするので乱用はダメ、ゼッタイ。
動機を無くす
動機はシステムを使わなくさせるきっかけとなる出来事です。
システムを使わないという動機についての対策は効果が得られにくく、少し有効打とはなり辛いことがあります。
- 操作習得の時間(=人工や工数)を明確に確保する
- マニュアルの配布だけで終わらせず操作説明を実施する
- 問い合わせ窓口を周知して、操作方法を聞きやすい環境を作る
習得時間を明確に確保すれば、習得する時間が無いという動機は排除できます。
操作説明会を開催したり問い合わせ窓口を設置すれば、操作方法を習得しづらいという動機も緩和できます。
しかしながら、”新しいことを覚えたくない”という動機は対策が難しくなります。
そのため、こういう人が多くてシステムを使ってもらえない場合は機会や正当化の対策に重点を置いてみましょう。
正当化を無くす
つまりは言い訳させないということです。明確なメッセージを発信して、システムを使わないことはいけないことだと認識してもらいます。
- 経営層から会社方針であることの明確なメッセージ(通達など)を発信する
- 社内規定としてシステムの使用をルール化する
- 使わない人の上司や同僚に使ってもらい、外堀を埋める
社内統制が強力な組織の場合はこの方法が効果てきめんです。
一方、統制があまり厳しくない組織の場合はほとんど効果がありません。
その場合は粘り強く上層部を説得したり、社内アナウンスを定期的に繰り返したりと風土醸成からしなければならず社内SEは苦労しがちです(一緒に頑張りましょう・・・)。
まとめ
今回は犯罪心理学の考え方を社内SEの困りごとに当てはめるという、少し奇抜な発想をしてみました。
『システムを使わないのは使わないやつが悪い!』と一方的に考えていては進展はありません。
ユーザーが使うシステムは、ユーザーが使ってこそなんぼです。いろいろな対策を徹底したり組み合わせたりしながら普及を目指しましょう。